空き家900万戸を動かす制度改正と事業機会
全国の空き家は約900万戸、空き家率は13.8%と過去最高を更新しました。放置されがちな「その他の空き家」の増加を背景に、改正空家法や相続登記義務化といった制度整備が急速に進み、これまで市場に出てこなかったストックが動き始めています。本稿では、空き家再生・活用ビジネスの前提となる市場構造と制度改正を整理し、そこから生まれる事業機会と参入時の論点を報告します。
空き家900万戸時代の到来と「その他空き家」問題
総務省が公表した2023年の住宅・土地統計調査によると、全国の空き家は約900万戸に達し、総住宅数に占める空き家率は13.8%と過去最高を更新しました。25年前の1998年時点で空き家は約576万戸でしたので、四半世紀で1.5倍以上に増加した計算になります。人口減少と世帯数の頭打ちが同時に進むなかで、住宅ストックの供給過剰は今後さらに鮮明になると見込まれます。
とりわけ事業者が注視すべきは、賃貸用・売却用・別荘等のいずれにも分類されない「その他の空き家」です。これは相続などをきっかけに所有者が使わなくなり、活用の方針が定まらないまま放置されやすい住宅を指します。2023年時点で約385万戸に上り、空き家全体のなかでも増勢が最も強い区分となっています。管理が行き届かない住宅は、防災・防犯・衛生・景観の各面で周辺環境に負の影響を及ぼし、自治体にとって重い政策課題です。
この「使われないまま朽ちていくストック」を、いかに市場へ戻し、再生・活用・除却へと循環させるか。この問いこそが空き家ビジネスの出発点です。社会課題の解決と収益事業が重なり合う数少ない成長領域として、不動産事業者のみならず、建設・金融・警備・IT など多様な業種の参入を促しています。
事業環境を一変させた3つの制度改正
空き家が長く市場に出てこなかった背景には、税制や登記の仕組みが「持ち続けたほうが得」という誘因を生んでいた事情があります。住宅が建つ土地は固定資産税の住宅用地特例により課税標準が最大6分の1に軽減されるため、老朽化した家屋であっても解体せずに残したほうが税負担は軽く済みました。加えて相続時に登記を放置しても罰則がなく、所有者不明の空き家が積み上がってきたのです。近年の一連の制度改正は、この構造的な誘因に正面から手を入れるものでした。
第一が、2023年12月に施行された空家等対策特別措置法(空家法)の改正です。従来の「特定空家」に至る手前の段階として「管理不全空き家」という区分が新設され、そのまま放置すれば特定空家になるおそれのある住宅について、自治体が指導・勧告を行えるようになりました。勧告を受けると固定資産税の住宅用地特例が解除され、税負担が実質的に大きく増える運用が全国で本格化しています。
第二が、2024年4月に施行された相続登記の申請義務化です。相続の開始と所有権の取得を知った日から3年以内の登記申請が義務づけられ、正当な理由なく怠ると過料の対象となります。これにより所有者不明状態の解消が進み、相続空き家が売却や活用の相談として顕在化しやすくなりました。第三が、2025年4月施行の改正建築基準法によるいわゆる4号特例の縮小で、木造2階建て等の大規模なリフォームでも建築確認が必要となる場面が広がり、再生工事の設計・施工フローに実務的な影響を与えています。
制度改正が生み出す供給と事業機会
これらの制度改正が重なった結果、これまで市場に滞留していた空き家が動き始めています。放置し続けることの税・法的なコストが上がり、相続登記によって所有者が明確になったことで、「売る」「貸す」「活用する」という判断が下されやすくなったためです。供給側の環境が整いつつあることは、再生・活用を担う事業者にとって仕入れ機会の拡大を意味します。
最も分かりやすい事業機会は、中古戸建ての買取再販です。相続空き家を買い取って改修し、実需層へ再販するモデルは、地方都市を含めて取扱棟数が拡大しています。再販価格の上昇を背景に、自社施工を持たない事業者が地場の工務店と提携する連携型のモデルも増えています。あわせて、巡回点検・通風・郵便物確認などを代行する空き家管理サービスの市場も広がり、警備会社や物流・インフラ系企業といった異業種の参入が相次いでいます。月額制の遠隔管理プランやIoTセンサーを併用した商品が登場し、所有者が遠方に住むケースの受け皿となっています。
さらに、2025年に施行された改正住宅セーフティネット法は、単身高齢者などの入居を拒まない住宅の供給を後押しするもので、居住支援法人と連携した空き家・空き室のセーフティネット住宅への転用が新たな事業テーマとして注目されています。買取再販、管理代行、賃貸転用、宿泊・店舗への用途変更、そして最終的な除却と土地活用まで、空き家のライフサイクルの各段階に事業の入り口が広がっているのが現状です。
参入事業者が押さえるべき論点
市場環境が追い風であるとはいえ、空き家ビジネスは立地と物件の個別性が極めて高く、画一的な量産モデルが通用しにくい領域です。参入にあたっては、まず仕入れの競争環境を見極める必要があります。相続空き家の仕入れをめぐる事業者間の競争は都市圏を中心に強まっており、取得価格が上昇すれば再販や賃貸の採算は容易に悪化します。地域の司法書士や税理士、自治体の空き家バンクとの関係構築など、案件の入り口を確保する仕組みづくりが競争力を左右します。
次に、再生工事の実務面では、建築基準法4号特例の縮小により確認申請が必要となる工事範囲が広がった点に注意が必要です。工期や設計コストの見積もりが従来の感覚とずれると、収支計画が崩れかねません。旧耐震基準の住宅では耐震補強の要否も収支を大きく左右します。出口戦略の設計、すなわち実需販売・賃貸保有・事業用転用のいずれを狙うのかを取得前に固めておくことが、空き家再生・活用ビジネスを持続的な収益事業として成立させるための前提となります。制度が空き家を「動かす」局面に入ったからこそ、供給の増加を確かな事業機会へと変える目利きと実務体制が問われています。