AKIYA BUSINESS REPORT

空き家市場の現状と規模

全国900万戸・空き家率13.8%。統計データから空き家ビジネスの市場構造を読み解きます。

総務省が5年ごとに実施する「住宅・土地統計調査」の2023年調査で、全国の空き家は約900万戸、空き家率は13.8%と、いずれも過去最高を更新しました。本ページでは、空き家市場の規模と構造、25年間の推移、地域ごとの偏在を公的統計に基づいて整理し、空き家再生・活用ビジネスの事業機会がどこに存在するのかを報告します。

全国900万戸という現在地

2024年4月に公表された2023年住宅・土地統計調査(速報集計)によると、全国の空き家数は約900万戸に達しました。2018年の前回調査(約849万戸)から約51万戸の増加で、日本の住宅総数約6,500万戸のうち、およそ7戸に1戸が空き家という計算になります。空き家率13.8%という数字は、統計を取り始めて以来の最高値であり、住宅ストックの過剰と世帯数の頭打ちという構造要因を反映したものです。

重要なのは、この900万戸が一様な「問題物件」ではないという点です。別荘などの二次的住宅、入居者募集中の賃貸住宅、売却予定の住宅も統計上は空き家に含まれます。ビジネスの観点で注目すべきは、こうした市場に載っている空き家と、市場に出ていない放置状態の空き家を区別して捉えることです。後述する「その他の空き家」約385万戸こそが、再生・活用ビジネスの主戦場であり、同時に行政が対策を急ぐ社会課題の中心でもあります。

空き家が増える背景には、世帯数の減少局面入り、新築偏重の住宅供給構造、相続後の意思決定の先送り、解体費用の負担感、そして「更地にすると固定資産税が上がる」という税制上の構造が複合的に絡んでいます。つまり空き家問題は個々の所有者の怠慢ではなく、制度と市場の設計に根差した構造的な現象であり、だからこそ制度改革と民間ビジネスの両輪による解決が求められています。

統計を読むうえでの注意点

住宅・土地統計調査は全数調査ではなく抽出調査であり、外観調査を基本とするため、実際の利用状況と統計上の分類にはずれが生じ得ます。また速報集計と確報集計で数値が更新される点にも注意が必要です。事業計画の場面では、この全国統計に加えて、国土交通省の「空き家所有者実態調査」や各自治体が独自に実施する空き家実態調査を重ね合わせ、対象エリアの実勢を把握することが定石となっています。全国平均の13.8%という数字の背後には、集落単位で3割を超える地域から、5%台の都心部まで、極端なばらつきが存在するからです。

空き家の内訳と「その他の空き家」

900万戸の内訳を見ると、賃貸用の空き家が約443万戸と最も多く、次いで賃貸・売却予定のない「その他の空き家」が約385万戸、二次的住宅(別荘等)が約38万戸、売却用が約33万戸と続きます。賃貸用空き家の多くは都市部の共同住宅の空室であり、既存の不動産市場の枠内で説明できる存在です。

賃貸用 443万戸 その他 385万戸 空き家の内訳(2023年・合計約900万戸) 賃貸用 443万戸 売却用 33万戸 二次的住宅 38万戸 その他 385万戸

図1:空き家900万戸の内訳(出典:総務省「住宅・土地統計調査」2023年をもとに作成)

一方の「その他の空き家」は、相続などで取得したものの用途が定まらず、市場に出ないまま放置されている住宅が中心です。2018年の約349万戸から約37万戸増加しており、増加ペースは空き家全体を上回ります。管理が行き届かないまま老朽化が進めば、倒壊や防犯・衛生上のリスクを抱えた「特定空家」予備軍となり、地域の資産価値を毀損します。逆に言えば、この385万戸を市場に引き出し、賃貸・売買・用途転用につなげる仕組みこそが、空き家ビジネスの本質的な付加価値だといえます。

なお、最大区分である賃貸用空き家443万戸も、ビジネスと無関係ではありません。その多くは築30年を超える共同住宅の空室で、設備の陳腐化により募集しても埋まらない「実質的な死蔵在庫」が相当数含まれるとみられています。オーナーの高齢化により修繕投資が止まった賃貸物件は、リノベーションによる再生や用途転換の潜在的な対象であり、賃貸用と「その他」の境界は実務上は連続的です。市場全体を「手入れをやめた住宅ストックの再生市場」として捉えると、対象は385万戸よりさらに広がります。

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25年間の推移とトレンド

空き家数の推移を長期で見ると、1998年の約576万戸から2023年の約900万戸まで、25年間で1.5倍以上に増加しました。5年ごとの調査のたびに数十万戸単位で積み上がっており、一度も減少に転じたことがありません。特に2008年以降は住宅総数の伸びが鈍化する中でも空き家だけが増え続けており、人口減少局面における住宅ストック過剰が定着したことを示しています。

0 300 600 900 576 659 757 820 849 900 1998 2003 2008 2013 2018 2023 空き家数の推移(万戸)

図2:空き家数の推移 1998〜2023年(出典:総務省「住宅・土地統計調査」各年をもとに作成)

今後を左右する最大の変数は「相続」です。持ち家率の高い団塊世代が後期高齢期を迎え、2020年代後半から2030年代にかけて住宅の大量相続が発生すると見込まれています。相続を契機に空き家化する住宅が急増する一方、2024年に施行された相続登記義務化により、所有者が特定できる空き家の割合は高まっていきます。「増える空き家」と「動かせる空き家」が同時に増えるこの局面は、再生・活用ビジネスにとって構造的な追い風といえるでしょう。

推移を考えるうえで見逃せないのが、新築供給との関係です。日本では人口減少下でも年間80万戸前後の新設住宅着工が続いており、世帯数の伸びを上回る住宅が供給され続けてきました。国は住生活基本計画で既存ストック活用への転換を掲げ、リフォーム・既存住宅流通の市場拡大を政策目標としていますが、新築偏重の税制・商慣行はなお根強く、ストックの供給超過は今後も続く見込みです。つまり空き家の増加は一過性の現象ではなく、住宅市場の構造そのものに由来するトレンドであり、再生・活用ビジネスの需要基盤は長期にわたり持続すると考えられます。

地域偏在――空き家率上位県と都市部

空き家率は地域によって大きな差があります。2023年調査で空き家率が高いのは和歌山県と徳島県(ともに21.2%)で、山梨県、鹿児島県、高知県などが20%前後で続きます。これらの地域では5戸に1戸が空き家であり、集落の維持そのものに関わる課題となっています。一方、空き家率が低いのは沖縄県や埼玉県、東京都などですが、絶対数で見ると人口の多い大都市圏が上位を占め、東京都だけで約90万戸の空き家が存在します。

表1:空き家率の高い主な県(2023年住宅・土地統計調査をもとに作成)
都道府県 空き家率 特徴・背景
和歌山県 21.2% 紀南部を中心に人口流出が続き、別荘系の空き家も多い
徳島県 21.2% 中山間地域の過疎化が進行、木造戸建ての放置が課題
山梨県 20.5% 別荘・保養所など二次的住宅の比率が全国有数
鹿児島県 20.4% 離島・半島部で相続空き家が蓄積
高知県 20.3% 高齢化率が高く、その他の空き家比率が高い

事業戦略の観点では、この偏在は「地方=課題先進地・低単価」「都市部=物件単価が高く回転が速い」という二つの異なる市場が存在することを意味します。地方圏では自治体の補助金や移住施策と連動した再生モデルが成立しやすく、都市部や政令市周辺では買取再販や賃貸転用など純民間ベースの事業が成立しやすい、という住み分けが実際のプレーヤーの分布からも観察されます。

絶対数で見た場合の主戦場は、むしろ大都市圏です。東京都の空き家約90万戸をはじめ、大阪府・神奈川県・愛知県など大都市を抱える都府県が空き家数の上位を占めます。都市部では戸建てだけでなく、旧耐震の分譲マンションの空き住戸や、管理組合が機能不全に陥りつつある「管理不全マンション予備軍」も課題として浮上しており、区分所有法制の見直しの議論とあわせて、都市型の空き家・空き住戸ビジネスという新しい領域が形成されつつあります。

市場規模と事業機会

空き家関連ビジネスの市場規模を単一の統計で示すことは困難ですが、隣接市場から輪郭を描くことができます。既存住宅流通とリフォームを合わせた市場は年間十数兆円規模とされ、国は既存住宅流通・リフォーム市場の活性化を住生活基本計画の柱に据えています。中古戸建ての買取再販は年間数万戸規模に成長し、空き家管理サービス、残置物処理、解体工事、家財整理、民泊運営代行といった周辺サービスも拡大を続けています。

とりわけ注目されるのは、「その他の空き家」385万戸のうち、腐朽・破損がなく再利用可能な物件が相当数を占めることです。国土交通省の調査でも、放置の理由として「物置として必要」「解体費をかけたくない」「特に困っていない」といった所有者側の動機の弱さが上位に挙がっており、物件の物理的な劣化よりも、所有者の意思決定を促す仕組みの欠如がボトルネックであることが分かります。査定・相談・仲介・再生・出口までを一気通貫で提供できる事業者への需要は、今後も拡大が見込まれます。

周辺市場の広がりも見逃せません。空き家の片付けを担う遺品整理・生前整理業は高齢化を背景に成長を続け、解体工事市場は老朽ストックの積み上がりとともに拡大しています。相続登記を担う司法書士、境界確定を担う土地家屋調査士、空き家に対応した火災保険や瑕疵保険といった専門サービスも、空き家経済圏の一部です。空き家ビジネスは単一の業種ではなく、不動産・建設・士業・生活サービス・金融が交差する複合市場として理解する必要があります。

ポイント:空き家市場の本質は「物件の供給不足」ではなく「意思決定の停滞」にあります。所有者の心理的・手続き的ハードルを下げるサービス設計が、385万戸の潜在供給を市場化する鍵となります。

次ページでは、この市場を動かす最大のドライバーである法制度の変化――改正空家法、管理不全空き家、相続登記義務化――を詳しく報告します。

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