空き家を強制取得して社会住宅へ、グラスゴーの手法が日本に示すもの
ニュースの概要
英国グラスゴー市議会は、長期間放置された空き家3戸を強制的に取得し、改修したうえで社会住宅として再利用する計画を承認した。改修は地域の住宅協会と連携して進め、取得後の管理も各協会が担う。あわせて市は保有する複数の土地を住宅開発事業者や住宅協会に売却し、160戸を超える新築住宅を整える方針だ。内訳は手頃な価格の住宅、社会賃貸住宅、民間分譲住宅である。空き家の再生と新築供給を同時に進め、住宅不足に対応する狙いがある。
引用元: グラスゴー市、長期空き家3戸を強制取得し社会住宅へ転用(Glasgow Times)
分析・見解
3戸という小さな数字に込められた政策の狙い
今回の強制取得はわずか3戸である。住宅不足を解消する規模ではない。それでも意味があるのは、空き家対策を住宅供給計画の一部として位置づけた点にある。160戸超の新築と同じ会議で議論され、同じ予算の枠で動く。空き家は「放置された迷惑物件」ではなく、使える在庫として扱われている。
新築には土地の確保、造成、許認可で数年かかる。空き家の改修なら、既存の道路や上下水道がそのまま使える。早く、安く戸数を増やす手段として、少数でも継続して積み上げる価値がある。
取得した後を民間の協会に任せる仕組み
注目したいのは、取得後の改修と管理を住宅協会に委ねる点だ。住宅協会は非営利の組織で、社会住宅の運営ノウハウを持つ。市が自ら大家になれば、修繕や入居者対応で職員と予算が膨らむ。役割を分けることで、市は取得という強い権限の行使に専念できる。
日本でも空き家の管理を担う主体は課題である。自治体が所有者不明の空き家を処分できても、その後を担う受け皿が乏しい。英国の住宅協会に近い存在として、NPOや地域の不動産会社、まちづくり会社が候補になる。
日本の制度との距離はどこにあるか
日本では2023年の改正空家法で、放置すれば危険になる「管理不全空家」への指導や勧告が可能になった。勧告を受けると固定資産税の優遇も外れる。ただし、自治体が所有者の同意なく取得して福祉目的に転用する道は、原則として開かれていない。略式代執行や財産管理人の制度は、多くが解体や保全のための手続きである。
この差は財産権の考え方の違いに由来する。英国の強制取得命令は、一定期間空いていた住宅を公益のために取得でき、補償は市場価格を基準に払う。所有者の権利を無視するのではなく、補償と引き換えに利用を求める発想だ。
供給の組み合わせが生む街の混在
今回の計画は、社会賃貸、手頃な価格の住宅、民間分譲を同じ事業に混ぜている。民間分譲の売却益が、社会住宅の整備費を支える面もある。所得層が偏らない街になり、空き家再生で生まれた住宅だけが目立つこともない。
日本の公営住宅は、入居条件の厳しさから特定の層に偏りやすい。空き家活用でも、同じ地区で複数の用途を混ぜる設計は、地域の活力を保つうえで参考になる。
ビジネスへの影響
改修事業者にとっての新しい受注先
自治体が空き家を取得し、福祉や住宅の用途で再生する流れが日本でも広がれば、改修事業者にとって公共性のある安定した案件が増える。英国のように、取得、改修、管理を役割分担するなら、改修だけを担う事業者にも入札の機会が生まれる。中小の工務店は、断熱改修や耐震補強の実績を整理し、自治体が使う仕様書に合う形で提示しておくとよい。
投資家と不動産会社が備えるべきこと
空き家を長く放置する所有者には、今後、税や指導の圧力が強まる。投資家にとっては、安く仕入れられる機会が増える一方、出口として自治体や非営利団体への売却という選択肢も見えてくる。買い手が公的な主体なら、価格は低めでも売却先が確実になる。
不動産会社は、所有者との相談窓口を整えたい。売却、賃貸、寄付、活用委託のどれが合うかを早い段階で示せれば、放置を防ぐ。空き家バンクへの登録支援と、改修後の借り手探しを一体で提案する事業は、手数料以外の収益も見込める。
自治体と地域団体が今から着手できること
制度の変更を待たずにできることもある。まず、長期の空き家を所有者や状態、周辺の需要で一覧にする。次に、改修と管理を引き受けられる地域団体を探し、小さな試行を始める。数戸の実績があれば、国の補助金や制度改正の議論でも説得力を持つ。英国の3戸という規模は、そのまま日本の小さな自治体にも当てはまる出発点である。